アドニスたちの庭にて

    “赤いスィートピー”A

 


          




 昨夜から今朝にかけては、随分と強い雨と風とが吹き荒れていて。アスファルトに出来た浅い流れを時折白く蹴立てるほどになりもした雨脚の勢いには、季節はずれの台風でも来たかと思ったほど。風もずんと強かったみたいで、うるるうろろと唸るような音が始終していたし、遅くに帰って来たお父さんのさしてた傘には、サザンカの緋色の花びらが何枚か貼りついており。頭上へとさしてる時にくっついたもの、きっとどこかで咲いてたものが強い風で千切れ飛んでしまったのねと、お母さんが感慨深げに話してた。そんな荒れ方をしていたものが、なのに今朝は一変し、それは清かに明けたので。

  ――― 今年の卒業生たちの、これも日頃の行いが出たのかな。
       そうですね。
       ギリギリまで気を揉ませたというのは、ちと意外でしたが。
       そんな状況でも心配は要りませんよと澄ましているよな、
       そんな子らでしたものね。

 それって具体的にはどの卒業生さんたちのことなのやら、そして…何をどこまでご存知なのやら。三年生担当の先生方が、苦笑混じりにそんな風にお話しになってたのが何となく耳に届いたのは、今朝早くからの式場準備にバタバタと駆け回っていた時のこと。忙しい方が気が紛れていいと思って、お友達からの協力要請の打診へすぐさま応じ、自分から手をつけてた卒業式の準備だったけれど。その式自体も終わってしまった今、何だか…色んなものが胸の裡
うちから抜け出ていってしまったような気がしてならず。充実した達成感とは全く逆の、虚脱感のようなものに支配されそうになっている、小早川さんチの瀬那くんだったりし。卒業生を送る言葉を朗々と読み上げた新規の生徒会長からの送辞に応じて、元会長だった桜庭さんの答辞もそれは軽快で淀みなく。こんな凛々しいお兄様が卒業なさってしまうのを寂しいと思ってだろう、在校生の側からこそ、すすり泣く気配が一杯していたのを思い出す。
“えっと…。”
 朝早く来た“設営班”だったから、撤収や後片付けは良いよって言われてたんだっけ。陸ってばホント、気の遣い過ぎ。式の後で、元・生徒会のお兄様たちと積もる話もあろうからなんて、そんな風に思ったのかな? お兄様たちはどの方も人気者だから、会場だった講堂を出て一旦教室に戻られてから、再び校舎から出て来られたところをそのまま、それぞれのシンパシィの皆さんに迎えられ、取り囲まれていたのが、講堂の搬入口から見えていた。所属しておられた部の後輩さんたちばかりではなく、こういう時でもないと傍らに寄れないような、そりゃあ大人しい子たちが輪の中には結構いて。きっと今日が最後だからって勇気を振り絞ったのだろうね。そうまで素晴らしいお兄様がたを、ずっとずっと独り占めしてたセナとしては、逆にこんな日くらいは遠慮しないといけないのかも。そうと思って…足が運べず。撤収は手伝わなくても良いからと言われていたのに、講堂の脇、何となく佇んだままでいた彼だったのだけれども。
“…用もないのに居残っててもお邪魔だろうしな。”
 片付ける方は方で、キチンと段取りを組んでの作業なのだろうからね。さして力自慢でもないセナがいたところで、あんまり役には立てないだろし。濃紺の制服の小さな肩を、見るからに力なく落として、それから。持って来ていた学校指定のデイバッグ、さして重くはないのを肩に引っかけ、暖かくなって来たからと腕へかけてたコートを確かめてから、ほてほてと歩き出しかけた…その爪先の先。打ちっ放しのコンクリートのポーチだから、上履きで歩いても良いよゾーンになってるところのちょい先に、誰かの革靴の先っぽが見えた。あ、いけない俯いてたと気がついて、顔を上げれば、

  「…あ。」

 講堂から出るところで、在校生からの餞別ですと一人一人に手渡されたる深紅のバラ一輪。OBの方々からも何かしら贈られたのだろう、卒業証書を入れた筒の先をはみ出させた、濃色無地の紙袋を提げ。空いてた片手にそんな可憐な花を持って立っていたのは、ここ白騎士学園・剣道部の初等科からの通年連勝記録を更新中の無敵の剣士にして、先の生徒会では副会長を任じておいでだった、寡黙で凛々しき、黒髪の騎士様。進清十郎さんであり。
「あの…?」
 あれれぇ? でもあの、さっき確か、後輩さんたちに取り巻かれておいでじゃあなかったですかと。そのまま、駅前の喫茶店へでも繰り出して、最後のお別れにって積もる話に盛り上がるのが大体のセオリーなので。部外者のセナには近づきようもないなと、そう思っての虚脱感でもあったのにと、ともすればキツネにつままれているかのようなお顔になった弟くんへ、
「剣道部の面々とは春休みに入ってもまた逢うからな。」
 手短に仰せのこの一言。余計なお世話の解説をするなら、大学部の剣道部からも既にお声のかかってる進さんではあれど。敷地はすぐお隣りなので、春休み中までで良いから高等部の方へも練習をつけに来てやってはくれまいかと、顧問の先生から言われているのだそうで。なので、何も今日でお別れということでもなし、それじゃあまた明日明後日にでもと、いつもと変わらぬ態度にて、一礼を残して辞去して来たと仰有る人であり、
「…それよりも。」
 ほんの数歩分もないほどの間合いだけを残しての向かい合い。それをやすやすと埋めて届いた進さんの大きな手が触れたのは、弟くんの少し冷たい頬の縁。手のひらが頬を包み込み、親指の腹が目許を拭う。ああそうかと自分でもあらためて気がついて、
「…ごめんなさい。」
 ずっとずっと、泣いてばかりいるボクですね。もはやどうやって宥めればいいのかと、進さんを困らせてばかりいるに違いない。
「陸からも叱られました。」
 セナのクラスメートで、現在の生徒会の副会長さんでもある、演劇部のホープの甲斐谷くん。彼には先の春から此処の大学部に通っている従兄弟がいるのだそうで、
「携帯で呼んだらすぐにも逢えるぞって。」
 むしろ同じ高等部にいた頃よりも勝手がいいくらいだぞなんて言われました。それでも涙が出てしまったのは単に気持ちの問題で。色んなことがあったなぁって、それを思っての涙がついつい。口元を笑う形に何とか持ち上げ、
「御卒業おめでとうございます。」
 あらためての祝辞を述べると、それは冴えたる深色の目元を、ほのかに柔らかく和ませたお兄様、
「ああ。」
 短く、そうとだけ返して下さり。大きな手のひらが頬から頭へと移動して、いい子いい子と撫でて下さる。もう泣かないでと、言いたげに。剣道部の主将だった人。初等科からこっち、部内での立ち会いでも様々な大会でも、負け知らずのままにいるという、その世界ではもしかすると全国規模で有名な人。でも、その人の手がこんなにも暖かで優しいのだと知る者は限られているだろう。寡黙だけれど、その眸は繊細で能弁で。無心のままに鋭いかと思えば、今みたいに思いやりに和んでまろやかな時もあり、この何カ月かは自分が駄々を捏ねたから、慣れぬことへの もどかしげなお顔をさせてしまったなと、反省してもいるセナだったりし。昨夜の嵐に震えた心、今は目の前のお兄様のことでいっぱいになってる。…と、そこへ、
「…セナ。」
 背後からの声がかかって。振り返るのと相手が駆け寄るのとがほぼ同時。今さっき、名前を出した甲斐谷くんが、すぐ傍らの講堂から出て来ており、向かい合ってた進へと視線を向けると、
「進先輩、御卒業おめでとうございます。」
 ぺこりとお辞儀をしつつそんな一言。それへと小さな目礼で会釈を返した進にこそ、用があった彼であるようで、
「あの、実は進先輩の私物が緑陰館にあったんです。」
「…え?」
 口を開かぬお兄様の代わりのように、セナが訊き返せば、陸くん、小さなタグの下がった鍵を取り出し、
「これ、合鍵だから。お前が戸締まりして帰ってくれよ。」
「え? でも…。」
 あれれ? だって今日は卒業式で。そりゃあ、式の進行は先生方が運んで下さったのだろうけれど、生徒会にだってOBの方々へのご挨拶だのあった筈なのに? 皆がいるのでは?というお顔になった彼へ、
「今日は校舎の生徒会室を使ってるからな。緑陰館には誰もいないんだ。」
 二階の執務室のテーブルの上に置いてありますからと、これは進へ告げてから。使って悪いけどよろしくなと、セナへこそりと囁いて、進へのお辞儀をもう一度。そのまま たかたか講堂へと戻ってしまった彼を見送り、
“…進さんの私物?”
 三年生は登校日も限られてた状態だったとはいえ、だったら自分に言ってくれればよかったのになんて、まだちょっと怪訝に感じながらも、
「…あ、えと。それじゃあ行きましょうか。」
 進さんの持ち物があると言われては、ご本人に持って帰っていただかねばならなくて。帰りかけてた足元を、くるりと新たな方向へと向け直し、お兄様の先導よろしく、生徒会首脳部だけが上がれる特別棟、別名“緑陰館”へと向かうことにしたセナくんだったのであった。





            ◇



 ポプラの大樹が寄り添う、漆喰壁の木造の洋館。この学園の創設当時からあるらしい古さと格式を滲ませた、ちょっぴりお洒落な二階建ての建物で。元は美術室だか音楽室だか、関係教諭の詰めてたお部屋が1階にあり、2階は実技用の広い部屋と準備室という感じの間取りになっている。いつの頃からか高等部の生徒会首脳部たちが使う、特別な館という扱いになっており、この学園内にて文字通り“選ばれた人”だけが出入り出来る洋館として、ある意味で憧れの場所でもあったりし。春まだ浅い今頃は、ポプラも裸で寒そうな姿を晒しており、
「…えっと。」
 確かに、辿り着いてみれば誰の姿もないまま鍵がかかってた洋館で。まだ時々は助っ人として呼ばれているセナくん、慣れた手で鍵を開けて扉を開くと、お兄様を先に上げて差し上げる。嵐の後だったが暖かだったから、どうしようかと迷いつつ、早出だったので着て来たコートを抱えるようにし、内鍵をかけての一応の戸締まりをしてから後に続けば。
“…何だか。”
 お兄様が大テーブルの傍らに立っておいでの執務室。久し振りの構図だなと感じた。秋の交替があってのち、しばらくほどは引き継ぎでと足を運んでもいらしたけれど、それもほんの数日ほどのこと。セナという経験者が同級にいるのだしということで、ややこしい手筈などへも彼へと伝言を頼む形になってしまい、桜庭さん以下、前の生徒会の面々が此処から遠のいたのは結構早い時期だった。そしてそれもまた、セナの小さな胸を切なさで絞り上げた一因であったりしたのだが、
「…早いものだな。」
 進さんの低いお声が響いたことで、ハッとすると我に返る。ああ、進さんも何かしら感じ入っておいでなのだろな。高等部始まって以来の2年間という長期にわたってお務めに勤しんでた生徒会であり、教室や部室と同じほど、このお部屋にも思い出が一杯おありなのに違いなくて。古びた床板をかすかに ぎしりと鳴らして、窓辺のソファーへと足を運ぶ大きな背中。フランス窓の居並ぶ、何とも古風な一角に、軍服みたいに堅い装いのお兄様は、されど妙にマッチしておいでで。
“ずっと見慣れてた構図だったからかな…。”
 春には桜と甘い風。夏には緑風、秋は錦景、冬には寒空…と、風光明媚なここの構内の四季のとりどりもまた、ここで皆さんと感じたものばかり。色んなことがありましたね。たくさんの行事に翻弄されて駆け回ったり、校外でのお泊りにもご一緒させていただいて楽しかった。十文字くんとか水町くんといえば、怖い事件も持ち上がったけど、あの時も颯爽と助け出しに来て下さった。

  「………。」

 このお部屋に初めて通されたのはいつだったかな? ああそうだ、何だか取り留めのない、ストーカー騒動があって。それから守ってあげましょうって、進さんがお兄様にっていう誓約を申し出て下さったのが始まりだ。丁度、今 立ってらっしゃるところから、怯えてたボクに話しかけて下さった。それを思い出していると、

  「まるで昨日のことみたいだな。」

   ――― え?

 えとえと、あのあの。それって…? もしかして進さんも、ボクと同じことを思い出してらしたのかしら。肩越しに振り返って来られたお顔は、あの時と同じくらいに真摯なそれで。靴をずたずたにされちゃって、到底“好意”とは思えないものを突きつけて来てた、誰だか判らない影に怯えてて。怖くて怖くて震えてまでいたものが、あっと言う間に嬉しいってレベルへまで塗り替えられちゃったのを思い出す。
“…あれって、結構現金だったのかなぁ。”
 今頃思っても遅いっての。
(苦笑) ずっと憧れてた凛々しい人。幼なじみだという桜庭さんと並んでいると、雰囲気が対照的だったこともあってそりゃあ目立つ人だったから、他の子たちもよく噂話をしていて。そういうのをこっそり聞いては、お誕生日とか剣道の大会のお話とかへの情報収集をしていたものだった。セナにしてみれば、そんなほど“遠い人“な筈だったのにね。

  『俺に小早川を守らせてはくれないか?』

 そんな進さんがそうと申し出てくださった。あんな時だったから、ただボクを守るためにって思って下さっただけかもなんて思っていたのは、その前の…実はずっと見守ってましたというお話でどっかへ飛んで行ってしまったし。8年もの長い間、ボクが憧れてたのと同じ間、ボクのこと見てて下さった進さんだっていうの、すぐには信じられないほど大きすぎる“嬉しい”だったっけ。
「校章、返さなきゃいけないのでしょうか。」
 何げなく手をやった首元には、誓いの際に交換した色違いの校章。この詰襟制服の時は襟に、夏の開襟シャツの時は名札に付け替えて。いつもいつも身につけてた、小さなピンバッジ。お兄様がいる証しになってたものだったけど、3年周期での色違いなので、次の春にはこの色を新一年が使うこととなる。そこまで考えたセナだったのではなく。それが証拠に、
「もう要らないなら…。」
 進さんの言い出したその語尾が消えぬうちから、ぶんぶんとかぶりを振って見せる彼であり。
「あの…持ってて良いですか?」
 見上げてくる大きな瞳に頷いて、そのまま手を伸ばすと抱え上げてやる。
「…あ。」
 壊れやすい宝物。両腕でそっと包み込むようにしてながら、軽々と抱えられることへ、相変わらずに小さな子だなと実感する。それでも、初めて見かけたあの初等科の頃に比べれば。腕も足もすんなりと、若木の撓やかな枝を思わせるように伸びやかに成長しているし、その表情にも…この自分が言うのも何だが、何とも言えない奥行きというものが深まったと思う。困るとすぐにも大きな瞳を潤ませていた頼りなさに、少しずつ彼なりの忍耐が育ってゆき。殊に、お友達への思いやりに連なることでは、困りながらも怯みながらも、逃げてちゃいけないと決して進行方向に背中は向けない子になっていったのを、ずっとずっと見守っていた。どうしても障害になって退かないことへは、こっそり手を出してやる反則もたまにやらかしたものの、
『何でもっと手助けしてやらないの?』
 桜庭から怪訝そうな顔をされてた程度に押さえていた“自制”というもの、こっちもこっちで養っていたりして。だって、あんまり露骨な手出しをするのは、せっかくの彼の頑張りに水を差すような気がしたから。そう、ただ頼りないってだけならば、黙ってなんか見つめてなかった。いつだって逃げないで頑張る子だったのが、ああ実は強い子なんだって、自分からの注意を引き寄せていたんだと、今になって思う。

  ――― そして、今は。

 抱え上げたそのまま、お行儀は悪かったけれど、部屋の中央の楕円のテーブルの縁へちょこりと腰掛けさせる。こうすると、立っている自分と視線が同じになるほど小さな弟くん。ちょっぴり赤くなった瞳の縁やら、そろそろ揃えた方が良さそうな柔らかそうな前髪やらが間近になり、
「???」
 じっと見つめるこちらへと、小首を傾げたそのお顔や仕草が何とも愛らしくって。そのまま身を寄せ、小さな肢体を腕の中、くるみ込むようにぎゅっと抱き締める。不意なこととて驚いたのか、細っこい肢体は一瞬ひくりと震えたが。
「…進さん。///////
 小さな手が怖ず怖ずと、こちらの脇から背中へと延ばされて来、懐ろに埋まりそうになってた頬を、もっとすりすりと擦り寄せてくれる可愛い子。何へでも一生懸命で、笑ってくれると胸が芯から暖まる。そんな君がやっぱり好きだと実感する。自分が卒業してしまうことを寂しい寂しいと、泣くほど辛いと思ってくれるのが、言葉にならぬほど愛惜しい。

  「一年なんて、あっと言う間だ。」
  「………はい。」

 自分だって“君が大学部へ上がってくるまでの”というのを省略したくせに、小さな小さなお返事へ、却って心許なく感じてか。そぉっと身を離すとこちらを覗き込んで下さったお兄様。随分と陽の長くなった頃合いだから尚のこと、柔らかな陽射しが暖かく満ちた、見慣れたお部屋の見慣れた風景のその中で。




   ……………お兄様と、キスをした。











 何が起きたか判らずに。とはいえ。あんまりびっくりはしなかった。だからって、そうなりたいなんて思ったことはなく。でも。優しい口づけは温かいドキドキをいっぱいいっぱい、セナの中へとそそぎ込んでくれて。
「…あ、あの。//////
 何か言わなきゃと思って、だけど。何を言えば、何を訊けば良いのかまでは考えてなくて。んん?って優しい和んだ眼差しに見つめられると、ますますのこと思考が止まりそうになるのに負けそうになりつつも、

  「あ、あのあのっ。進さんの私物って、何のことでしょね。」

 そういえば。ここへと運んだのは、陸くんからそんな風に言われたからではなかったか。確か、テーブルの上へ置いてあると言っていた。進さんもそれで思い出したのか、視線をあちこちに巡らせたものの、きちんと片付けられてたテーブルには、何も乗ってなんかない。…あ、いやいや。いいつやの出たチャコールの天板に伏せられた、一通の封筒が同時に二人の目に入って…お顔を見合わせる。何かの書状か、そんな程度のものならば、それこそセナへ預ければ良かったのではなかろうか。そうと思いつつ、手に取ったお兄様。中から用箋を引っ張り出すその間、小さな弟くんは…余韻もあってか頼もしい懐ろに凭れたまんまでいたのだけれど。何かしら綴られているらしい用箋を眺めていた進さんが、微妙な…小さな小さな微苦笑をなさったのに気がついて。
「???」
 小首を傾げて見上げると、そんな気配に気づいたらしい、お兄様がこちらにその用箋を差し出して下さって。そこに綴ってあったのはただの一行。


  ――― 進先輩へ。セナは先輩の私物だと思いますので、ご報告申し上げます。


    「…持って帰れということだろうか。」
    「〜〜〜〜〜。////////


 さても、時は三月。いよいよの春爛漫まであと僅か。一足早い桜か桃か。それとも馬酔木か山吹か。可憐な緋色の小さなお花が、ここにもひとつ。やさしい温かさに誘われて、早くもほころびていたりする…。




  〜Fine〜  06.3.17.〜3.18.


  *久々だからか、ちょっと長めになっちゃいましたが、
   大切な節目のお話なので、見過ごすことも出来ませんで。
   タイトルの『赤いスィートピー』は
   歌詞に“付き合いだして半年経つのに、あなたって手も握らない”
   というのがあったと思いましてvv
   こうまでしおしおとしおれてるセナくんですが、
   四月を過ぎれば案外、立ち直りは早いと思われます。
   今度はセナくんが受験生になる訳ですが、
   毎日のように一緒に帰っていたり、剣道部の応援へと足繁く通ってたりして。
   もっと甘ぁ〜い二人になりそうですよねvv
(苦笑)

   「まったく。あの悲壮な顔はどこへやらだな。」
   「…その代わり僕は寂しいです。」
   「しょうがねぇだろが。春は交流戦てのがあるんだよ。」
   「凄いですよね、蛭魔くん。もうベンチ入りしてるんですって?」
   「凄くなんかないっ。」
   「…お前ねぇ。」

  しっかりしてください、桜庭さん。
(苦笑)

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